秋桜が見えた

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「お父さん、あたし知ってるのよ」  ファミレスのテーブルに着くなり娘は厳しい視線を向けた。 「な……何を?」 「解ってるでしょ。いつまで続けるつもりなの?」 「いや、違うんだ」 「何が違うの? あたしメールの履歴を見ちゃったのよ」 「えっ? 見たのか?」 「ええ。お父さんが、そんな事をしてたなんて驚いた」  娘は薄く涙を浮かべている。 「もう、止めてね。悲しいから」  娘の後方に秋桜が揺れている。窓の外、敷地内の植え込みに白とピンクの花弁が風にそよいでいた。 「うん、そうする。なかなか踏ん切りがつかなかったんだが……明日きっぱりと、あれするから」 「終わりに出来るのね?」  ウエイトレスが水とお絞りを置きに来た。 「コスモスを下さい」  私が注文すると 「えっ?」  娘とウエイトレスは呆気に取られている。 「お父さん……何を言ってるの?」 「えっ? ああ間違えた。はは……あそこに秋桜が見えたもんだから」  娘は振り返ってそれを見た。 「ああ、お母さんの好きな……」  娘がバッグから携帯を取り出しテーブルで開いた。半年前に亡くなった妻の携帯だった。  メール本文: 《ねぎを買ったよ》 ―了―
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