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長机を挟んでお互いパイプ椅子に腰掛けると、一連の流れのようにハルが自前のノートを鞄から取り出し、机の上にバァーと広げる。
「早速だが、文化祭ということで青春を題材にした小説なんかどうだろうか?」
「青春?……まぁ、学生を相手にするんだから良いとは思うんだけど」
「そうだろう?なんなら恋愛を題材にしても面白いと思うんだが……どうだろう?」
「ブッ!?」
吹いた。
不覚にも、ハルに向けて盛大に吹いた。
だってあのハルが恋愛小説に興味があるなんて……くくっ、ダメだ、笑っちまう。
「……よし、杏が言いたいことは分かった。ならこうしようじゃないか」
俺がいつまでも笑っていたからか、いつになく淡々としたハルの声が響く。それはハルが怒っている証拠だ。
さっきのノートで顔を隠して笑っているのがバレないようにしてたんだけどなぁ……
「俺が青春小説、杏が恋愛小説を書くんだ。
それで文化祭前日にお互いの作品を見せ合い、良かった方を文化祭に出す……どうだ?」
「あははは、は……は?いやいやいや! 俺小説とか書いたことないし!?」
「文芸部部長がそれではいかんだろう。ちょうど良い機会だ、書いてみるんだ。それに……」
「……それに?」
俺が聞き返すと、ハルは明後日の方向へと視線を向ける。
「俺が恋愛なんて似合わないみたいだからな」
「………」
……どうやらさっき笑ったことを随分根に持ってらっしゃるみたいで。
結局、最後のハルの復讐に反論できず、否応なしに俺は恋愛小説担当になったわけだが……本当、ハルを怒らせるべきじゃないな。
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