【世の災厄――火災】

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  私は物心ついて以来、かれこれ四十年以上は生きてきた。その間に不思議な出来事を幾度か体験した。 さて、最初は安元三年(1177年)4月28日の事だったか……風が吹き荒れる騒々しい夜の事だった。 戌の時(午後9時頃)頃、辰巳(南西)の方角から火の手が上がり、京都はたちまち炎に包まれた。 火災はたちまち延焼し、しまいには朱雀門、大極殿、大学寮、民部省に至るまで燃え広がった。重要施設が瞬く間に灰の山となった。 火元は樋口富にあった路地で、病人が寝込んでいた民家より出火したのだと伝えられている。 小さな火種が吹き荒れる風に乗り、まるで扇を広げるかのようにあっという間に燃え広がったというわけである。
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