【世の災厄――火災】

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  ――火災から遠くに住む人でも煙に巻かれて大変な目に遭い、運悪く近くに居た人達は地を焼け焦がす炎を吹きかけられた。 空には灰が舞い上がり、炎の明りが写りこんで真っ赤に見えた。強風で飛び散った炎はそのまま一つ二つ先の町を燃やした。 こんな中で逃げ回った人達は生きた心地がしなかった事だろう。 ある者は煙に巻かれて倒れ、ある者は炎に包まれて即死した。からくも生き延びた人達も居たが、財産を持ち出すほどの余裕は無かった。 古今東西のあらゆる場所から集まっていた財産がこの火災で残らず灰になってしまった。被害総額はケタ違い、誰にも分からない。 この火災で公卿(朝廷の高官)の屋敷が16軒も焼けたという。それより下の被害件数はもう数すら把握されていない。 ざっくりと言えば都の三分の二が消失し、数千人の庶民達が死亡した。家畜なども含めたらきっと数え切れないだろう。 人間の営みなど、全くもって愚かだという気がしてくる。 こんなに簡単に燃え尽きてしまう、危険と隣り合わせの都に何千人もが住んで家を建て、莫大な財産で見栄を張り合い、日々頭を痛めていたのだ。 考えてみればこの上ないほど空しい事ではないだろうか――
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