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二章
この頃、この街では物騒な事件が起こっているらしい。
そのことをテレビで知ったのか新聞で見たのかは覚えていないが、そのどちらでもそれ以外の何かしらのものからでも、起こったその事件の内容には関わりないので気にしない。
起こっている事件というのは、俗に言う通り魔事件らしかった。そしてその被害者は全員無残な死に様をしており、異常者の犯行ではないかと言われている。
心外な、彼はそう思った。
あれは芸術だ。無残な死に様などではなく、褒め称えるべき作品の数々だ。それを生み出す自分は、芸術家と呼ばれるべきだ。
……確かに少しばかり失敗してしまったところもあるので、そこを無残と言われてしまえばそうなのではあるが。
――ともあれ、その『通り魔』たる彼は淡い光に照らされる夜の街を徘徊していた。肩から手頃な鞄を斜めに掛け、『作品』を作るための小道具を幾らか忍ばせて。
にぃ……、彼は口の端をつり上げた。
さて、今日はどんな芸術品を作り上げよう。先日は不手際があったので、今回は気をつけなくてはならない。二度も失敗を衆目に晒すことは、あまりに美しくない。勿論、できれば一度たりとも有り得てはいけなかったのだけれど。
不意に彼は顔を上げ、眩いばかりの煌きが撒き散らされた空を見上げた。
「あぁ、今日はよく晴れている。空に浮かぶ月が、そして小さな星が、今日も励めと言ってくれているようだ。――さぁ、それではこの美しい月夜にかけて今日の題目は『美女の横顔』にしよう。うん、とても良い物が作れそうだ」
心の底から嬉しそうな声が響く。
彼の目線の先には、綺麗な髪をたなびかせながら歩く女性の後ろ姿があった。
「――調度、題材も見つかった」
始まりと終わりの言葉。
彼の『芸術品』作りが始まり、『題材』たる女性が美しい月明かりの下でまどろみの中へ終わり逝く――。
第二篇・『醜悪な美女の横顔』
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