一章

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*      *      *  清瀬が箒を振るい、モップで床を拭き、雑巾で店内のあらゆる家具の埃を拭い、叩きで食器棚に溜まった塵をはたく。  会話が終わり、彼女はすぐさま室内の掃除を始めた。まるでそれだけしかすることがないとばかりに、できることがないとでも言わんばかりに、それは丹念に抜け目なく、諸手が腰掛けるカウンター席に至るまで。そこに人がいようがいまいがお構い無しにやってのける。  彼はそんな彼女の姿を横目で見つつ、感嘆の吐息を洩らした。ここまで掃除に満身する人を、今まで見たことがない。 「いや、彼女の働きぶりにはいつも驚かされているし感謝もしているのだけれどね。ところ構わず周囲を蔑ろにしてまで頑張られては、それは迷惑だとすら感じてしまうよ。ねぇ、諸手君?」 「……まぁ、それはそうですけど。ここまで見事な掃除をされては、むしろ感心します」  アリスの同意を求める言葉に、そう返す。  曖昧な、どちらに肩入れをすることもない発言をとってきた諸手にそう言わせしめるほどに、清瀬の掃除ぶりは付け入る隙がなかった。その周りを全く気にしない姿勢は、いっそ清々しいとさえ言える。 「感心される程のことではありません。ただ汚いのが嫌いなだけですので。諸手さんも綺麗な方がよろしいでしょう?」  そう清瀬に言われ、半ば反射的に頷き返した。それが当然だという彼女の言葉に、反論の余地はない。対するだけの意味ある言葉を彼は知らなかった。
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