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清瀬が満足そうに頷く。反対に、アリスは心底呆れたように嘆息した。
「綺麗も行き過ぎれば、そこに何が残るんだい? 本当に埃一つ塵一欠片をすべからくなくしてしまいたいのであれば、いっそ何もない所に行けば解決だよ。ゴミがあるから掃除できるのだし、汚れているから綺麗にできるんだ。清瀬さん、前にも言ったけれど君は綺麗好きなのではなく綺麗にするという行為そのものが好きなんだ。履き違えてはいけないよ」
「っ……そう、でしたね」
アリスの言葉が、清瀬の表情を崩す。苦々しく噛み締めるように呟いた清瀬は背を向け、心なしか肩を落として再び掃除に邁進し始めた。
「全く、彼女には自覚が足りないよ」
呆れたような、しかしどこか優しげな声音だった。彼女に似つかわしくないような気がして、諸手は少し驚きの表情を浮かべる。
それを見て、アリスは苦笑。
「一応私は此処の管理人だからね。皆のことをそれなりにわかっているつもりだし、そして誤っているのなら正してやろうという気概くらいは持ち合わせているんだよ」
それは本音か欺瞞か。
初めて見た、彼女のあまりに人間らしい表情に彼は判断しかねた。逆説的に、今までが偽りばかりの虚構であったというのであればそれは本音に違いない。
アリスの表情がまたいつものそれに戻る。人を喰うような笑みでいて、しかし人間らしさを垣間見た今であれば儚く脆い薄膜にしか見えない。有り体言えば、嘘臭くも感じられた。
諸手はふと疑問を抱く。
綺麗好きとその行為自体を好むことの差異は、確かにあるのだろう。けれどそこにどれ程の違いはあれ、然したる問題には成り得ないはずだ。ましてや、アリスが人間らしい表情を露出させるほどの理由には足らない気がした。
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