一章

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「どうやら疑問に思っているようだね、諸手君」  アリスが面白そうに言葉をかける。 「えぇ、少し……。清瀬さんが綺麗好きであれ掃除が好きなのであれ、あまり問題も違いもないように思うんですけど」 「いいや、全く異なるし決定的な問題点だよ。放っておけば彼女が狂いかねないくらいにはね」  これが本調子とばかりに、アリスはいつものほの暗く薄ら寒い笑みで言葉を紡ぐ。その内容は、あまりに理解しがたい。 「清瀬さんにも言ったけれど、ただの綺麗好きであるなら何もない所に行けばいいんだよ。わざわざこんな薄汚い路地裏にある、掃き溜めみたいな場所に来る必要性は全くないんだ。それでも彼女は此処に来る。その理由はとても簡単で端的に言い表すことができるよ。……つまり、汚いからさ。実に掃除のし甲斐があるし、此処ほど他人の迷惑を考えず周囲の目を気にすることもなく作業に没頭できる場所もないだろうからね。此処が綺麗な表の道にある何の変哲もない店だったなら、清瀬さんは絶対に来なかっただろうね。そんな場所はただの地獄で牢獄だ。行く意味もなければ、私達のような人間かぶれには居場所すらない。だからこそこんな辺鄙な所にある『喫茶店』に来て、いつも忙しなく滞りなく掃除をしているんだよ。諸手君だって此処以外はそんな風だと感じているからこそ、また此処を訪ねて来たんだろう?」  のべつまくなし、あるいは長広舌。それらの言葉がこれ程当て嵌まるものもないだろうと思わせるほどの熱弁だった。諸手の疑問などはさらに掘り下げられ、根掘り葉掘りの勢いで饒舌を振るった。思わぬ言葉の羅列に、慄きさえする。 「まぁ、つまりだ」  一息、いつの間に注いだのか紅茶が揺れるティーカップを傾け、一時の間を空ける。
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