14人が本棚に入れています
本棚に追加
ふっ……、目の前が暗くなる。
どうしたのだろうと左手で目を擦ろうとしたが、何も感じない。
ますます疑問に思った彼女は、いつもの考え事をする時の癖で爪を噛もうとした。……噛めない。
「あ、れ……?」
水が泡立ったような奇妙な音が、発声の邪魔をした。そこでようやく、彼女は目を開くことができた。
まず映ったのは、舗装された綺麗な道。
次に映ったのは――塀にもたれ掛かる、首のない胴体だった。
「やあ、やあ。これはまた綺麗な断面だ。惜しむらくは脂肪の層が、少し潰れてしまったことだろうか。余分な血も流れて、美しさが半減している。やはり断面は磁器のように滑らかに、流れる雫は憂いの涙のように淑やかでなければならない。けれど、この安堵感に包まれた表情はとても良い! ああっ、まるで救われたような顔だ。なんていじらしいのだろう!」
閑静な住宅街の夜道に、そんな言葉が響いた。
彼女にはもう、何も聞こえていなかった。
第一篇・『首なし乙女』
最初のコメントを投稿しよう!