一章

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*      *   * 「それで、その……」  暫く無言で紅茶を啜っていたのだが、あまりにも耐え難いものに諸手は呻くように声を洩らす。  ちらり、彼はカウンター席から周囲を見渡した。  彼が意識するのは、此処の『住人』たる幾つかの人影たち。来客者が珍しいのか、一様に彼に視線を向けている。そのどれもが形容し難い混濁した感情を孕んでいるようで、とてつもなく居心地が悪かった。  そんな諸手の心情を悟ったように、アリスが薔薇色の唇を震わせる。 「何、先程も言ったように遠慮することはないし、気にすることもないよ。その内慣れてくるさ」  慣れるだろうか。……いや、絶対にないだろう。彼女のような柔軟性は彼にはない。  しかし、アリスというこの少女は充分に異様な性格の持ち主だが、こうして普通に会話ができる辺り、他の住人よりは社会性があるのかもしれない。確かに多少、というよりも多分に口が過ぎる気がしないでもないが、それも性分と割り切れなくもない程度。  だからこそ、彼は不思議に思わずにはいられなかった。 「どうして貴女は、こんな所でこんな人たちと集まっているんです?」 「……今、何と?」  アリスの低い声が嫌に響いた。  しまった、そう思った時には手遅れで、彼は思ったことを有りのままに口にしていた。情緒豊かそうに笑みを浮かべていたアリスでさえ、能面のような無表情になっていた。
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