14人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「それで、その……」
暫く無言で紅茶を啜っていたのだが、あまりにも耐え難いものに諸手は呻くように声を洩らす。
ちらり、彼はカウンター席から周囲を見渡した。
彼が意識するのは、此処の『住人』たる幾つかの人影たち。来客者が珍しいのか、一様に彼に視線を向けている。そのどれもが形容し難い混濁した感情を孕んでいるようで、とてつもなく居心地が悪かった。
そんな諸手の心情を悟ったように、アリスが薔薇色の唇を震わせる。
「何、先程も言ったように遠慮することはないし、気にすることもないよ。その内慣れてくるさ」
慣れるだろうか。……いや、絶対にないだろう。彼女のような柔軟性は彼にはない。
しかし、アリスというこの少女は充分に異様な性格の持ち主だが、こうして普通に会話ができる辺り、他の住人よりは社会性があるのかもしれない。確かに多少、というよりも多分に口が過ぎる気がしないでもないが、それも性分と割り切れなくもない程度。
だからこそ、彼は不思議に思わずにはいられなかった。
「どうして貴女は、こんな所でこんな人たちと集まっているんです?」
「……今、何と?」
アリスの低い声が嫌に響いた。
しまった、そう思った時には手遅れで、彼は思ったことを有りのままに口にしていた。情緒豊かそうに笑みを浮かべていたアリスでさえ、能面のような無表情になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!