はじまり

2/17
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「気持ち悪ぃ…吐く…か、も…」 中学校三年生という多忙な時期に引っ越す事になってしまった。 それもちょっとした引越しではない。元住んでいた大都会、東京から遥かに離れた駅まで電車で行き、そこから長い時間をかけてバスに乗り次に船に乗るとやっと着く小さな"海璃島"という島に住むというのだ。 都会での生活に微塵も不満を感じていなかった姫宮月(ヒメミヤ ツキ)にとってこの引越しの話は面白くない事この上なかった。 「何だよ此処…マジ田舎だし…つか携帯圏外かよ……。」 有り得ない程揺れる小さな船の上で役に立たない手の平サイズの機械をジーンズのポケットに仕舞い、呆れたように言って舌打ちをする。 「だりぃ…」 月が引越しを嫌がる理由は何も新しい住居が田舎にあるという事だけではない。一番気に入らないのは自分が引っ越さなければならない理由だった。 "貴方は身体が弱いから…" "喘息が軽くなったと言ってもまだ無理があるから空気の美味しい所で…" "都会の空気の中での医学的な治療よりも田舎の……" 「病人扱いすんなよな…」 呟いて掌に爪を立てる。 プライドの高い月にしてみれば労りの言葉は好ましいものではない。奥歯をきつく噛み締めると水平線に浮かぶ小さな緑色の島を真っ直ぐに見据えた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!