第二章 一線

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「すみません。宅配便です」  紀夫は、閉じられたドアに向かって一言声をかけ、返事を待たずにチャイムを押した。視線を下に移し、郵便物と表札の字を再度確認する。笠間知江。どちらもそう書かれていた。間違いは無い。  日はいつの間にか頂点に達し、時間帯で言えば午後に差し掛かっていた。配達を一件一件着実に、確実に終えていき、この郵便物を届けたら、午前中の仕事を終えようと紀夫は意気込んでいた。  だが……。 「すみませーん。郵便でーす」  先程よりも幾分か大きな声を出す。続けてチャイムを押す。暫く待って、様子を見る事にしよう。簡単に諦めるわけにはいかない。ただ単純に面倒くさかった。そう、本音を言えば……。  紀夫は両手に郵便物を持っている。一つは茶色の封筒。この程度の厚さと重さなら、封入されているものは紙一枚といったところだろう。もう一つは、拳三つは入りそうな黒い箱。いわゆる定型外の郵便物。  これが先程言った、〈面倒くさい〉と懸念される要因だ。
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