第一章 今日という日

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 この時期になると、校門の前には淋しげに佇む木が数十本立っているが、春になると満開の桜が咲き、生徒達の出会いと別れを見守っている。  卒業生がわざわざ足を運んで眺めに来るほど、その光景は華美である。自分自身もあんなに綺麗な桜を見たのは一年前の入学式が初めてだった。  元々、性格的に人見知りするほうで、これでも以前よりかは解消されたと自負している。だが、高校時代の友人がこの学校には一人も進学していないということに多少の不安を感じていた。……あの頃は。  だから、今こんなに話せる友人ができるなんて夢にも思わなかった。夢に向かって共に進む――同じ夢だというだけで分かり合える何かがそこにはある。  寒さに震える体に鞭打ちながら、その木の門をくぐって二人は学校の校門を出た。  校門の右側――大理石に刻まれた表札にはこう書いてある。 《インスペクション専門学校》と……
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