第一章 今日という日

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 ――2――  今日はやけに人が多いなと、三倉久志(みくら・ひさし)は思っていた。そろそろ夕日が沈む時間帯だ。  いつものこの時間帯なら学校が終わった学生は多い。制服を着たまま友人達と楽しそうに騒いでいるのを、何度か見たことがある。しかし、まだ働いているはずの会社員は少ない。  だが、今日は違う。  スーツ姿の中年男性もちらほらと見かける。やけに真面目な表情をして。  何かあるのかなと興味を抱いたが、まだ電化製品の在庫確認の仕事が終わっていないので、テレビの前の人だかりに目をやりながらその場を去った。  ここは大手家電量販店。四階にあたる。このフロアには液晶テレビ、DVDレコーダー、カメラ、音楽プレーヤー、腕時計等あらゆる種類の電化製品が置かれている。  今向かっているのは地下三階の専用倉庫。倉庫と言うだけあって、関係者以外立入禁止の場所だ。  ここまで大きい家電量販店は東京中探してもそうそう見つかりはしない。その店の倉庫も比例して驚くほど大きい。なので、ここで働く従業員は口々にこう言う。〈在庫確認は地獄だ〉と。
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