第二章 一線

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 それにしても、金田がこれほど恐れるものとは一体何だろうか? 彼から語られる〈INI〉のイメージはどれも抽象的で、真実味が無い。それに相対するように金田の顔は強張っていく。  話しを聞く紀夫は、逆に興味がそそられていくのをヒシヒシと感じていた。簡単に言えば好奇心だが、ただ単純に面白がっているわけではない。知りたいのだ。今、日本という小国が湧いている、その職業の実態を。郵便物を届けるだけでは、何もわからないかも知れないが、少しでも触れてみたかったのだ。簡単には味わえない非日常に。 「なら僕が行って来ましょうか?」  紀夫は、自分でも思いがけず大声を出してしまったと思った。  その言葉を聞いた金田の顔がみるみる晴れていく。 「本当か! いやでも。あそこは、本当に。何というか、ったく、言葉が出ねえなあ、もう。歳か?」  それからダラダラと〈INI〉の不気味さを語っていたが、紀夫はそれらの言葉を右から左に受け流していた。馬の耳に念仏、釈迦に説法。今の紀夫に対して、〈INI〉の恐さを語っても何の恫喝にもならない。逆に、火に油を注ぐようなものだ。
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