第二章 一線

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 笠間知恵への宅配を終え、紀夫が郵便局に戻って来る頃には既に、局員全員が昼食を取っていた。その輪の中に入った紀夫も、先程コンビニで買って来たサンドウィッチの封を開けた。 「今日はパンか?」とか「弁当はどうした?」といった質問に、いつも通り「母ちゃんが早番で……」と紀夫が答える。同僚の一人が「お前の母ちゃんの卵焼き食べたかったのになあ」と、物欲しそうに言ったのを金田が制止し、「これをやる」と、真っ黒な物体をポイッと投げた。 「何すか、これ」 「分かるだろ、卵焼きだ」  金田が差し出したそれは、黒々しく焼け焦げており、お世辞にも卵焼き、いや食物とも言えない出来映えだった。 「どうしたんすか、これ」  同僚の一人が、その場にいた誰もが聞きたい質問を金田に言った。 「ワイフと喧嘩しちまってな」と答えた金田が憫笑すると、その場にいた局員もつられるように笑い出した。  和やかな雰囲気は、終始笑い声を呼び、いつ終わるかも知れない世の中の歪んだ情勢を切り裂くように、大きく響き渡った。  そう、何も知らなければ、今もあの頃のように、大きな声で笑えたのに。数時間後の紀夫は、もう以前のように笑えない、厭世観に取り込まれてしまうのだった。
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