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「おい。黒沢、早く帰ろうぜ。次の電車あと十分で行っちまうぞ」
この学校で唯一の親友、田所がいつになく焦り気味で喋っている。
相変わらず元気だな。
うるさいくらいに……
「ん? どーしてそんなに急いでんの。今日なんかあったか?」
頭の片隅に居座っている〈それ〉は微かでも確かに存在する。だが、意識がまだ表面上に浮かび上がっていない黒沢は、はっきりと〈それ〉を思い出せない。
その様子を見ていた田所は少し呆れている。挙げ句の果て、ため息をつく始末。それに続く悪態。
「ばか。お前、五時からKINGの発表だろ。早くしねぇと見れねーぞ!」
そうだ。そうだった。
KING。待ちに待った日がとうとうやってきたのだ。
田所から発せられた言葉を聞いたためか、自分の目がどんどんと覚めていくのが分かる。脳内が活性化。例えるなら記憶喪失の人間が細い糸を辿り、やがてすべてを思い出すかのように頭の隅々が冴え渡っている。
……と、その前に確認しなければ。
顔を上げ、黒板の上にある時計を見る。午後四時半。
目を擦る――午後四時半。
瞬きをする――午後四時半。
左頬をつねる――午後四時半。
どこをどう見ても、何をしても、目に映るその光景は午後四時半。
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