第二章 一線

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 ただ、何か違和感がある。ガードレールの先に居る人々は、私利私欲とはまた違う、何か……、得体の知れない何かに怯えているような、それこそ正に金田さんのあの印象的な目、あれと同じ、何かに怯えている目をしていた。  信号は青に変わる。紀夫は横目で人々を見遣りながら、再びアクセルを踏んだ。少しでも遠くに行きたかった。彼らから離れたかった。  バイクを走らせること十分。無数のビルを抜けた紀夫は、ほとんど人がいない広大な敷地に出た。〈INI〉専用駐車場だ。車の数もそれほど多くはない。そのため、不必要な大きさが際立って見える。 〈INI〉は近くで見るとより一層迫力がある。入口である自動ドアは不必要なほどの表面積があり、中も不必要なほど広い。  その大きさを例えるなら、自分の体が不意に小さくなって、もといた世界を歩き回るような、あるいはその逆で自分の体は変わらず、世界全体が大きくなった、そんなファンタジーの世界に潜り込んだ気分だった。  威容を誇るビルの自動ドアが、唸り声に近い音を上げて、猛々しく猛然と開いた。建物自体が円形のため、ドアもそれに沿って湾曲している。  紀夫は、大きく口を開けた怪物の体内に入る小人のように、とてつもない恐怖心に震え上がっていたが、やがて気が落ち着いてくると意を決して臨場した。
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