第二章 一線

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 意外なことに中には誰もいなかった。   ここまで大きい施設に、人っ子一人居ないとは……。どうやってこの施設を稼動させているのか、不思議でしょうがない。  自動ドアから入って来た紀夫の目線の先には、受付らしきカウンターがあるが、そこに居るはずであろう受付嬢さえ一人もいない。  無用心にも程がある。いくら天下の〈INI〉だからと言って、不審者が入って来ないとも限らない。その自信は一体どこから湧いて来るのか?   紀夫は、懸念される全ての事柄を捨て去るように辺りを凝視した。自動ドアから左を見ると、円形状の建物に沿って、扉が連なっている。全部で四つ。右も同じ構造で、中央にある受付の影になっているエレベーターも含めて、九つの扉が見て取れた。  紀夫は仕方なく、何処かに居るはずであろう人影を見つけるため、そして、この郵便を届けるために、近くにある扉に手をかけた。  左から順々に開けてみよう。  一室目、木製の扉を開けるとそこは、食堂だった。円形テーブルが、二、四、六、全部で七ツ。その全てに白い布が敷かれ、シミ一つない。奥に調理場があり、料理に必要なる調度一式が揃っている。清潔感で溢れるその場所にも、人影は見当たらなかった。
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