第二章 一線

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 一室目の右隣、二室目は衣装室だった。  ハンガーラックには、多種多様の洋服が数多く掛けられている。例を挙げれば、警察、スチュワーデス、医師、看護師、消防士等の制服。黒スーツや私服も揃えられており、この部屋にある洋服だけで、アパレル関係の仕事が出来る程の量だ。ポールハンガーには帽子が、その奥にある戸棚にはアクセサリーや時計、指輪などの小物類が収納されている。  紀夫は、衣装室を出る時ふと、どうして〈INI〉にはこんなにも洋服が充実しているのか、一抹の疑問を抱いた。  だが、深く考えるまでもない。他人を監視するため、不自然な恰好をしないために存在する衣装なのだ。〈INI〉という機関で、どのような仕事を行っているのか細かく知らない紀夫だったが、監視が仕事なら、なるべく自分の存在を誰にも知られないように行動するのが当たり前だ。  次の部屋は視聴覚室だった。カーテンで閉め切られ、中は薄暗い。大きなスクリーンの他に、パソコンやカメラ等の精密機械が備え付けられている。坐り心地の良さそうな椅子も数十台完備され、一見すると簡易映画館のようにも見える。
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