第二章 一線

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 四室目、この部屋に関しては木製の造りではなく鉄の扉だった。  紀夫は、それまでと同じように、前に押して扉を開けようとした。  開かない。  それならと、紀夫は扉を手前に引いてみる。  ガツっという音だけ響かせたが、結局開かなかった。  この部屋だけ鍵が掛かっているのかも知れない。  見てはいけないと言われると逆に見たくなる、あの懐かしい衝動に駆られる紀夫だったが、どうする事も出来ないと悟ると、四室目をあとにした。  エレベーターを通り過ぎ、五室目。この部屋に鍵は掛かっていなかった。扉を押し開け、中を一瞥する。  紀夫には、一瞬、時が止まったように感じられた。この部屋だけは、他のどの部屋より極端に異質だった。 「な、な、……何だ、アレ」  紀夫の口から吐息が漏れる。過呼吸のように息が乱れる。運動したわけでもないのに動悸が激しくなる。足が震える。恐怖に陥った人間に訪れる全ての現象が紀夫に降りかかった。  この部屋に来てやっと、〈INI〉という機関が、至極不穏当なる場かもしれないと、訝った。  そしてその光景は、紀夫の心胆を寒からしめる。
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