葉月三日の噺

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「…失礼致しました。政宗様、今は勉学の時間では?」 「今日の分は終わった。ちょっとお前に用事があってな」 「はあ…」 どうやら小十郎が想像していたのとは今日は違ったらしい。てっきり弱っているとばかり思っていたのだが。 小十郎が問い掛けると、先程まで拗ねて頬を膨らませていた筈の彼は途端に笑顔を浮かべた。小十郎に対して良く見せる年相応の笑みである。 可愛いなぁ、などと思っている小十郎を政宗は向かい合わせに座り直させながら、己が持っている書物を小十郎に見せ付けた。 「…これは?」 「南蛮の本だ。今日の勉学はこれ」 「…はあ」 最近の政宗のお気に入りは南蛮であった。船で渡ってきたという少々値が張る南蛮語の書物を取り寄せては読み耽り、南蛮語を覚え、異国の知識を取り入れる。 勉強熱心になるのはとても良い事であるし、知識が豊富になるのも悪い事ではない。 ただ正直に言うと小十郎は、そんな南蛮好きの政宗に対して少々困っていた。 異国から入ってきた知識とは、殆どがこの国とは全く違う知識である。異国との交流を始めてまだそう広まっていないこの国では、習慣も、言葉でさえも全く違うのだ。 さて、今度は何を突拍子もない事を言うのやら、小十郎の困惑はその表情にも出ていたが、政宗は気付いていても気にしない。手にしていた書物をパラパラと捲った後、やがてその項を開いて小十郎にも見せる。 勿論書かれている内容も南蛮語。小十郎にはまだ解読できない為何と書かれているかは全く分からなかった。 「ここにはバースデイの事が書かれてる」 「……ばーす、でえ?」 「バースデイ、な。人が生まれた日の事だ」 「…はあ…」 小十郎にはどう見ても暗号文にしか見えない。解読不能の記号の数々をあっさり読んでみせる政宗はやはり凄いと感動した眼差しを向けるが、政宗は気にせず話を続けた。 「異国では、毎年生まれた日を祝うらしい」 「…生まれた日を、ですか?」 「そうだ。日ノ本だと正月に皆で祝うだろ?」 「そうですな…」 この時代の日ノ本では基本的に生まれた日に祝うという概念はない。毎年正月に数え年で年をとり、皆で盛大に祝う、それが基本だった。それが異国では違ったらしい。政宗は話を続けた。  
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