葉月三日の噺

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葉月三日。政宗の乳母である喜多――小十郎の義姉である――に確認をした所この日で間違いないらしい。 その葉月三日が、正しく今日この日なのである。 「そこで俺はお前にサプライズをしてやろうと思って………どうしたんだよ、小十郎」 「も、ももも申し訳御座いません政宗様…!その様な大事な日だとは知らず…!」 衝撃的な告白に暫し固まった後、我に返った小十郎がした行動とは――畳に頭を擦り付ける程の勢いの土下座であった。 先程も述べた通り、基本的に日ノ本では生まれた日を祝う習慣はない。それ故小十郎も知らないのは当然なのだが、頭が混乱している小十郎はその事実に全く気付いていないらしい。 傅役失格、こうなったら腹を切るしか…と混乱する頭は大変な答えを導いていたが、政宗はそんな小十郎の反応も予想済みだったらしい。溜息を一つ吐くと両腕を伸ばし、顔を上げさせた後早まる事をしない様にと小十郎の体を一回りも二回りも小さい体で抱き締めた。 「野暮は無しだぜ、小十郎。今から祝ってくれりゃあいいだろう?」 「ま、政宗様…!」 何と寛大なお言葉か…!と思う小十郎は、先程政宗が言っていたサプライズと言う言葉はやっぱり抜け落ちているらしい。感動で今度こそ泣いてしまいそうな小十郎に政宗はにっこりと、笑った。 「とは言っても、今から準備は流石に難しいだろ?」 「いえ!政宗様の為に、今から早急に手配致しましょう!」 「うん、ちょっと落ち着こうな?祝うのは来年からでいいから、小十郎からはプレゼント、くれよ」 「…は、ぷれぜんと…?」 「だから、贈り物」 小十郎は、政宗の為ならばこの目出度い日を是非とも祝ってやろうと考えていたのだが。贈り物、と言われて再び試行錯誤する。 政宗が喜ぶ物、政宗に見合う物、政宗の為になる物…。一体何が良いだろうと、悩む小十郎に対して政宗は無邪気な笑顔のまま顔を近付けた。 「簡単だ。お前からのキスが俺は欲しい」 「…………きす?」 きすとはなんだ、魚か。魚でいいのか。 一瞬訳が分からず、文字通り目が点になり、呆然としていた小十郎に政宗は更に顔を近付け―――  
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