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「Hey,小十郎」
「…政宗様」
昔に思いを馳せていた小十郎を現実へと引き戻したのは、主である政宗――今まで思考していた姿よりもずっと成長した政宗であった。
政宗の公言した通り、政宗や政宗の父輝宗等、生まれた日が分かる者は翌年からその日に、分からない者は正月に、『birthday party』と称して祝いを上げていた。尤もそれらは宴会を開き酒を飲む口実となっていたが。
葉月三日。今年も、この日を迎える事が出来た。戦で命を落とす事もなく、大事な主の傍らで。今や主の右目として。感慨深い思いで縁側に座り夜空の下酒を呷る小十郎の横に、政宗は腰を下ろした。
「なーに考えてたんだ?随分考え込んでたみてえだが」
「いえ、少し…昔の事を思い出しておりました」
「…昔の?」
「ええ。…貴方に初めて、ぷれぜんとをした時の事です」
政宗は一瞬目を丸くし、何やら思案した後……思い当たる節があったらしい、酒を手にしたままそっぽを向いてしまった。
その耳や頬が赤らんでいるのは、酒に弱い主とは言え、今回ばかりは酒が原因ではないのだろう。
「Shit…覚えてやがったか…」
「勿論です。あの様な大事な日を、忘れる筈が御座いません」
あの日、あの時。重なった唇は、笑みを浮かべるのとは裏腹に僅かに震えていた。前々から計画を立てていたのだろう。そして余裕ぶって見せながら、実はとても緊張していたのだろう。
それは、今思い出してもなんとも、――
「あの時の政宗様は、とてもお可愛らしかったですよ」
「…言うんじゃねえ」
そっぽを向いたまま拗ねた様な声で言う政宗は、成長しながらも変わらない。小十郎は微笑ましさを隠し切れないまま、静かに夜空を見上げた。
「ご覧ください、政宗様。まるで、貴方の様だ」
「…Ah?……ったく、敵わねえな…」
見上げた先にあったのは、晴天に輝く綺麗な三日月。政宗もそれを見上げ小さく笑った後、酒を置き、改めて小十郎と向き直った。
静かな縁側で、今は二人きり。
「…それで?小十郎、お前からのpresentは?」
「…貴方が望むのなら」
結局毎年、変わらない。くすくすと、互いに小さく笑い声を溢した後、遠い昔と同じ様に、二人は静かに唇を重ね合わせた。
そんな二人を見ていたのは、夜空に輝く三日月のみであった。
終
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