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「なあ、アリトの親父さんって、宅配屋…だよな」
まっすぐ立っている平太は俺に背を向けたまま言う。
「ああ……そうだけど…それがどうかしたのか…?」
「………」
「平太?……おい、聞いてんのかよ」
「ん?…ああ悪い。聞いてるよ」
「だったらウチの親父がどうかしたのか?」
「そうだな……。
なあアリト。やっぱりやめにしよう」
「は?やめにするって、何を」
「お前の事。
俺は今までお前に良い出会いがあるようにって色々とお前に協力してきたつもりだったけど。
やっぱり、違う気がするんだよ。
俺があーだこーだって言ってお前にやらせるんじゃない。
良い出会いなんてのはさ、お前が感じて、お前が動いて見つけるもんだと思うんだ。これからは俺は何も言わねぇ。お前が見つけていくんだ。
だから。やめにしよう」
ゆっくりと、まるで独り言でも言うようにそう言い終えた平太は空から目を離そうとしない。
「はぁ!?お前から話し合おうって言ったかと思ったら今度はやめにしようって、ワケわかんねぇよ!」
「はは。ワケわかんねぇかもな。でもいいんだ。
今日はもう帰ろう」
肩越しに振り返り軽く微笑んだ平太は、その後声を掛けるでもなくなぜか一人屋上を出て行ってしまった。
「………」
すっかり夏の色を含んだ生ぬるい風が体を通り抜けるのを感じた。
「なんだろ……この取り残された感……」
平太の表情は、何故か納得した表情だった。
俺には全く理解できなかったけど、平太なりに何か思うことがあったんだろう。
「ははっ。やっぱワケわかんねぇやっ」
俺は何とも言えない虚無感を払うように自嘲の笑みと共に、寂しさの残る屋上を後にした。
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