バイト

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「ごめんなさい!!」 俺は割れんばかりの大声で、地面に向かって盛大な詫びの言葉を放った。 昨日の一学期最終日から日付が変わって夏休み初日の今日。 現在時刻は午前7時13分。部活をしていない俺のような男子高校生にしては些か早すぎるであろう活動時間なのだが。 俺は今これでもかってほど山積みになった段ボールが並ぶ倉庫に来ている。 いや別に忍び込んで謝罪させられてるワケじゃない。ここは親父の仕事場の一部、まあ宅配屋を経営してる親父の宅配物の保管倉庫だ。 「おいおい、それでも腹から声出してんのか?蚊が鳴いたかと思ったぞ」 「はは。同感だな平太くん」 「はあ!?お、おまっ鼓膜だけ老化でもしてんのか!今のでそのコメントはないだろ!俺の最大限の大声だぞコラァ!」 さっきからふざけたツッコミを隣から無表情で俺に向けるのは何故かジャージ姿の平太。そして俺の目の前ででーんと腕組みをしてなんとも緩い笑みを浮かべているのが俺の親父。 そんな場所で俺は何をしているかというと。 実は俺も自分が何をしているのか知らないんだ。いやこれは決して俺が馬鹿だからとかではなく……いや実際馬鹿なのだけれどまあ兎に角そういうワケではない。 ただ分かることは10分程前から「おはようございます」 「お邪魔します」 「ありがとうございました」 そして「ごめんなさい」の復唱をさせられているということ。 しかも掠れるほどの大声で。 朝から喉が壊れるっての。 「ははは。冗談だ孝人。これで晴れてお前も合格だ。いやぁ時の流れというものは早い。お前も知らない内に立派になったもんだなあ。父さんは嬉しいぞ」 「いや待て。なんだよ合格って。この復唱に合格も不合格もあったのかよ!しかもアンタ受験に成功した息子を讃える時みたいな言い方してるし…… ……いや何誇らしげな顔してんだよ!」 ああもうダメだ。こんなこと朝からやるようなことじゃないさ。 大声の挨拶の復唱、そして猛虎の如く激しいツッコミ。 俺はもう息も切れ切れで涙もちょちょ切れて……
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