亀裂

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「あら?藤堂はんちゃいますのん?」 ん?この声どっかで…。 聞き覚えのある声に振り返ると 「お、お前…っ。」 「覚えてくれてはりました?」 上品に笑ってみせる女性。 それはこの前訪れた遊郭に居た 太夫の一人、紅。 「…平助くん?知り合い?」 凛がそう訪ねると 「あ~…いや、なんつーか…。」 遊郭で少し、などと言える筈もなく 口ごもってしまう。 「この間、遊郭でご贔屓にして頂いたんどす。」 「えっ…、遊郭…。 じゃあ…そこで働いてる方…?」 何故、ここに?と疑問に思う。 その表情を読み取ったのか 「ここは吉原と違うて太夫は 手形さえあれば郭から出られるんどす。 お嬢さんも、良かったら遊郭、来はります? 女子でも楽しめますさかいになぁ?」 「あ…いや、私は…。」 慌てて断る凛。 「そうどすか?楽しいのになぁ? 藤堂はんなんか、楽しそうにしてはりましたもんなぁ?いつぞやの宴会の日。」 回想にふけ、楽しそうに笑う紅。 「え、ちょ!俺、そんな…っ。」 “そんな記憶はない” そう言おうとしたのと同時に 「す、すみませんっ!私、用事があるので帰りますっ!」 「うぇ!?り、凛!」 凛が銭を置いて駆け出していってしまった。
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