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午後6時30分
切菜の両親から了解を得て、運命(?)の時間を過ごす事となった俺と切菜。
そして約束の晩御飯の時間となった…
「と、とりあえずは作ってみたけど…味は保障できないわ。」
切菜は俺の向かいの席に座っているが、目を合わせようとしない。
そんなに料理に自信が無いのだろうか。
とりあえず視覚を頼りにする限りは、普段食べている物より少し豪華で美味しそうな料理だ。
「先に言っておくけど、豚カツね…」
「うん。馬鹿な俺でも分かる。」
次は嗅覚に頼ってみようか。
カツの大胆な香りとレモンの繊細な香りが見事にマッチしている。
「何か、リンゴとかニンジンとかすりおろしてたけど…何処いった?」
一応「俺も手伝おうか?」と聞いたのだが、「お詫びだから」と切菜が一人で作ってしまった。
不安なら手伝ってやったのに…
それに、結構な時間が掛かっていたな。その分手間と愛情が…
「…ソース。」
「…え?」
「ソース。」
聞き間違い…ではなさそうだ。
え?ソースって買うものじゃないの?
「さっき聞いたでしょ?ソースは甘いのか辛いのかどっちがいいって。」
成る程、あの言葉にはそんな意味が込められていたのか。因みに俺は甘いのって答えた。
「ソース作るって…大変だったんじゃないのか?」
市販のものがある位だ、そこそこの手間は掛かるのだろう。
「ま、まぁね。超スローフードなのよ!」
スローフードって…確か、カップ麺とかコンビニ弁当とかじゃなくて、手作りで手間の掛かるヤツの事だよな…あれ、違ったっけ?
とにかく超が付く程時間が掛かったのだろう。味わって食べなければ。
「も、もういいでしょ!早く食べましょ!!」
切菜が少し早口で急かしてきた。
百見は一食にしかず。犬も歩けばカツを食べる。
「…んじゃ、早速…」
俺がカツに箸を伸ばそうとしたその時。
「待ちなさい。」
切菜の透き通った声を俺の耳が捉えた。
「どうしましたか我が家の料理人?」
「誰が料理人よ!_まだいただきますしてないでしょ。」
いただきます…食べ物と作ってくれた人に感謝の気持ちを込めて言う儀式のようなものだ。
「スマン。…いただきます。」
「分かればいいのよ。…いただきます。」
二人で手を合わせ、箸を手に取り、軽くカツを摘んだ。
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