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ビニール袋は要らない、と先に断って、小銭と引き換えにビニール傘を受け取る。
ありがとうございました、という営業用の声を背中に、僕はまだ雨の止まぬ屋外へと戻った。
買ったばかりの傘をぱん、と開く。これで濡れ鼠になる心配は無い。
後は真っ直ぐ家に帰るのみだった。
一歩踏み出す。ぱしゃり、と足元の水溜まりが音を立てた。当然、気にもしない。
また一歩。さらに五、六歩。早足に帰路を急ぐ。
先程のコンビニから10分程歩いた頃だった。
僕は不意に、視界に其れを捉えて、うっかり足を止めてしまっていた。
「…、」
…人影が、踞っていた。
歳は20後半から30前半、髪は黒く、ぼさぼさで長く伸び放題だが、体格からして男性、と言った所だろうか。
…路上に踞る他人を冷静に判断している自分が少し滑稽だな、とぼんやり思った。
今、僕が差し掛かっているのは、売り物件だらけの何とも寂しい住宅地で。しかも、こんな雨の晩に…、その人は、一体何をしにここに来たのだ。
目の前の男の意図が読めずに、思わず眉をしかめる。
ひょっとしてホームレスなのか、とか考え始めた時に、不意にぴくり、と目の前の男が動いた。
気配を察知したのか、顔を上げる。
――――目が、合った。
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