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煙より現れたのは夜に溶けているような漆黒の髪。
紫電のように禍々しい光を放つ紫色の瞳をした、まだ20歳にもなっていないであろう青年であった。
口元が隠れるまで上げられた赤色のチャックが付いた膝まである黒い無地のコートを着て、彼はそこには立っていた。
「なっ!?なんだこいつは!?」
先ほどまで高圧的だった男は、そのあまりにも冷たい視線と感じる計り知れない魔力に恐怖してしまう。
シュッ
刹那――微かに空を切るような音がしたかと思うと、横にいた初老の男性が何も言わずに地面に倒れる。
何が起こったか分からない男が横を見ると、うつぶせに倒れた男性の下に血溜まりがではじめていた。
攻撃されたことを理解した男は、すぐさま対峙する青年を見る。
青年の手にはいつの間にか切っ先を血に濡らした漆黒の刀が持たれていた。
男は数秒で自分の置かれた状況と力量の差を理解し、最良の策を見つけるために数十もの策をシミュレートする。
しかし......
「何を考えようと...俺はお前たちを消すだけだ」
青年が初めて言葉を発した瞬間、男は理解した。
対峙している青年の実力が自分が策を練ってどうにかなるレベルを越えていることに。
指揮官たる男はすでに絶命していた。
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