自己の証明

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 暗い……どこだ?   ここは何もない。  俺は何故、ここにいるんだ? 「おや、やっとお目覚めかな?」  ふと、声が聞こえた。気づけば、目の前に男が立ち、俺を見つめていた。  その瞳は深く静かな、常闇のような漆黒。  ぞくりと背筋が震える。見つめていてはダメだ。そう思い、その瞳から逃げるように目を逸らし、口早に答える。 「だ、誰だっ?」 「誰だと問われても困るが……誰なのだろうな、私は」  禅問答のような、ぬるりと答えをはぐらかす男はわずかに苦笑いを浮かべて顎を撫でる。 「まあ、私のことはいい。それよりも、君は自分の事を知っているかな?」 「自分の事? ……馬鹿にするなっ」 「そうか。では、出来るのだな」 「……なに、を?」  また、男は聞いてくる。その顔は笑っている。俺を嘲笑っている。 「君が『君』であると証明を、だ」  男は聞く。理解不能な言葉だが、今度はその瞳から逃れる事も出来ず、俺はただ男を見つめ返す事しか出来ない。  ……この男は誰だ。  そもそも、ここはどこだ? こんな場所に俺は覚えはない。俺は普通に生活してたはずだ。 「俺が俺である……証明?」 「そうだ。君が君であるためには他者の存在が必要となる」  唐突に男は笑う。その言葉の意味が分からない。  俺は俺だ。俺が『俺』であるためにどうして他人が必要になるんだ。 「他人なんて必要な――」 「いや、必要だ。記憶には他人が多大に関与しているから」  記憶? どういう意味だ? 疑問が口を吐く前に、男は笑う。俺を面白く、おかしく、声をあげて笑う。
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