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異様な緊張感と不安を胸に目をやった腕時計の針が刺すのは、午後四時五十五分。
今日はまるで特別だと言わんばかりの、曇り一つない鮮やかな夕焼けだ。
僕は息を大きく吸い込み空を仰ぐ。
初めてここで彼女の亡霊に出逢ってからどれ位の月日が経っただろうか。
いや、本当はそんなことはどうでも良かった。
彼女が僕の全て。
それだけでいい。
だけど、彼女を眺めるだけの日々はもう終わりだ。
夕焼け小焼けが鳴り響く。
僕の心臓が大きく跳ねる。
ぱた……
ぱた……
僕をすり抜けて、彼女がゆっくりと姿を現した。
歩道橋の中心へ向かう彼女。
その足下でかさかさと花束が音を立てる。
僕は深呼吸をして彼女に近付く。
しかし彼女は僕に目もくれず夕陽を眺め続けている。
「僕は君を、君は僕を知ってたんだね」
話しながらも、僕と彼女の距離は縮まっていく。
「忘れててゴメン。まだ全部思い出せないけど、もう一度伝えるよ」
ついに僕は彼女の隣に立った。
「僕は、君のことが好きだ。悲しいことからも、辛いことからも、僕が全部守ってあげる。だから――――――ずっと一緒に居よう」
「あの日も、貴方は同じこと言った」
透き通った声。
あの日から初めて聞き取れた彼女の言葉。
彼女は僕の方を振り向いて、綺麗な茶色の髪が揺れる。
彼女は美しく微笑んだ。
「そして私を殺したのよ?」
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