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彼女は目をカッと見開き、物凄い速さでその細い腕が僕の首を締めあげた。
突然のことに、ぐぅと声が洩れる。
「苦しい? 苦しい? 私も苦しかったんだよぉぉ!?」
彼女は狂ったように笑いながら喋り続ける。
「何で忘れちゃってるかなぁ! 私にこんな目にあわせといて! 貴方って本当に思い込み激しいんだねぇ!」
彼女の声は大きくなり、首を締め上げる力も強くなっていく。
美しい顔を醜く歪ませている彼女を見ながら、僕は全てを思い出していた。
――歩道橋の上で彼女は夕焼けを眺めていた。
通路のど真ん中にいるものだから、大きな荷物を抱えた僕は通れず、しばらく突っ立っていた。
彼女は僕に気付くとごめんなさい、と言って道をあけた。
僕が不思議そうな顔をすると、彼女は照れくさそうに笑った。
『夕焼けって綺麗ですよね。私、大好きなんです』
そして僕は恋に落ちた――
――彼女に会う為に、僕は歩道橋を頻繁に訪れるようになった。
何度か彼女に会ったことで僕の気持ちは更に強くなっていた。
いつもうろついている僕を不審に思って声を掛けてきた警官に笑顔で答える。
『彼女を、待っているんです』
――彼女は歩道橋に現れなくなった。
彼女の身に何かあったのではと、彼女の大学、バイト先、自宅にも訪れてみたが、彼女はおらず誰も居場所を教えてくれなかった。
あてもなく彼女を探す日々が続いたが、偶然道を歩いていた彼女の姿を見つけた。
男の人と一緒だった――
――彼女が一人で人気の無い場所に来るのを見計らい、僕は彼女を問い詰めた。
そこは偶然にもあの歩道橋だった。
『どうして来なかったんだ!? 心配したんだぞ! それにあの男は――』
『もうやめてよ!!』
突然の彼女の叫びに驚いて黙ると、彼女はさらに言葉を続けた。
『貴方頭おかしいよ! いつもここで待ち伏せてるし、挙げ句の果てには私の居る場所調べてるし! 貴方に付け回されるのが怖くて、だから彼氏の家に逃げてたの!』
そこまで一気に喋ると彼女は涙を溢した。
『もうやめてよ……』
最後の一言は消え入りそうな程小さかった。
ストーカー? 僕が?
いや、違う。この想いは本物だ。
僕は彼女にゆっくりと近付いた。
『僕は、君のことが好きだ。悲しいことからも、辛いことからも、僕が全部守ってあげる。だから、ずっと一緒に居よう』
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