序章

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「だからさ、お願いよー、まじで」 「まじ、そういうのかったるい」 だらし無く下げたズボンは裾野が破れ、 上履きはばこばこいいながら悲鳴をあげている。 なかなかのイケメンなのに、そういうところが残念だ。 「ちょっと、翔太!」 「ってか次の日本代表の試合、お前んちで見てもいい?うちんち地デジに乗り遅れてさ、」 「はあ……」 幼なじみとは言え、かってしったるなんとかでコイツはかなり厚かましい。 しかも私にだけは容赦ない。でも、小さいころからの唯一の親友だ。 ボールと間違われて背中を蹴られて倒れた小学校時代、 相手にしなくなったくせに、わざわざリフティングの練習には時々付き合わされた中学時代 そして、私たちは鯨学園に入って晴れて高校生になったのだが 「なんで辞めたがよ」 「別にー」そういってはちょっと眉を潜めてがんを飛ばしてきた。 怒ってる、怒ってる 「サッカー好きじゃなくなった?」 私はボソッと零して、遠くを見つめた。 夕日が綺麗。 帰宅せずにがんばる部活動のみんなの声も遠くにこだましてる。 「いや、そんなんじゃないから。お前は続けてんのかよ?」 口を尖らせてやっと言った言葉がこれだ 翔太らしい。昔からコイツは弱みを見せたがらない。 かっこつけなんだよ。 私はふう、と息を吐いて言う「続けるよ、ただし、この学園でね」 にやっと笑って言ってみせた、やっと胸のつかえがとれたように、なんだかキラキラしてきた 「なに、それ?しかも、どや顔」 「すいませんね、かわいくなくて」 「被害妄想だろ、それ、んなこと言ってねー」 かぶりをふって、翔太は言う 「言いましたあ!そんなことよりいいことおもいついたから聞いてよ!」 「はいはい」 そういいながら肩をさげて、逆光から翔太が歩いてくる 影は遠く伸びた。 靴箱の前、誰もいない放課後の瞬間に。
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