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「いーの。こうでもしないと高山君逃げちゃいそうだし」
「逃げないよ……」
「ていうか、降りたらどうなんて言ってないでしょ。あ、私と勘違いされるのが嫌なんだ?」
岩下さんはそう言うと、サドルに手を置いて無理な体勢を作り、ニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んできた。
別に僕は嫌じゃないし、逆に周りに自慢できるんじゃないだろうか。
僕が懸念してたのは、僕じゃなくて岩下さんの方が僕と勘違いされて嫌な思いをすることだ。
「それを言うなら岩下さんがじゃない?僕と勘違いされて、後悔しても知らないよ」
「私?私は高山君とならOKよ」
「……そう」
最近の女の子はこんな冗談を良く言うのかな。
最近の男の子であるはずの僕の心は、高確率で冗談である岩下さんのその言葉に何故か舞い上がっているのが分かった。
自分でもため息をつきたくなるくらい単純だ。
「高山君、顔赤い」
「えっ、いや……たまたまかな」
「ぷっ……何、たまたまって」
岩下さんはサドルから手を離し元の姿勢に戻ると、口に手を当ててわざとらしくクスクスと笑った。
僕はこの時すでに岩下さんには敵わないと理解した。
「朝はチャラいのかと思ったけど、中々真面目みたいね高山君」
「普通だよ、平均的な男子」
「ま、顔赤いも冗談なんだけどね」
「……岩下さんって」
「なに?」
「なんでもない」
「えー?気になるでしょ、言っちゃっていいよ。怒らないから」
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