自転車

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しっかり掴んでてと言っても、岩下さんは制服の裾をチョコンと握るだけ。朝と同じだけど、何かを期待してしまった自分が恥ずかしい。 校門を出たら今度は僕が他クラスの男子からの質問攻めに遭い始めてしまったので、誤解されないための説明と苦笑いを振り撒きながらスピードを上げた。 そんな僕を見てまた岩下さんは笑っている。 そして周りも静かになり、学校を出て5分くらいでやっと岩下さんと二人だけの下校が始まった。 「友達多いのね」 「部活してたらあんなもんだよ。僕も知ってる誰かがいきなり可愛い子と帰ってたら、そりゃ質問の一つや二つしたくなるしさ」 「ふーん。可愛い子、とね?」 「あ、いや……」 口が滑ったとは言わないけど、墓穴は掘ってしまったようだった。こういう小さいところを拾ってくるあたり、岩下さんと話す時は気を引きしめていかないといけないようだった。 「高山君、そういうの天然なの?」 「天然って聞かれても……」 「そう。じゃあ高山君は私を可愛いって思ってくれてるのね」 「まぁそうだけど」 「否定しなさいよ馬鹿」 バシッと背中を叩くと、岩下さんはさっきとは違いギュッと制服を握ってきた。 「岩下さん、顔赤いよ」 「へっ?そんなわけ……って前向いてるんだから高山君にわかるわけないじゃない!」 岩下さんが初めて取り乱すように声を荒らげたので、僕は少しだけ笑みを浮かべた。 「高山君もしかして笑ってる?」 「いや……岩下さんが大声出すの珍しいなってさ。もしかしてドキドキした?」
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