自転車

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僕の質問が聞こえなかったのか、岩下さんからの返事は返ってこなかった。ちょうど信号機で止まったので、僕は足を地面に着けて後ろを見てみた。 「岩下さ……!?」 「ふふっ……私をからかうなんて良い度胸じゃない、高山くん?」 振り向きざまに、岩下さんは僕の頬を人差し指でつついてきた(力の強さはつつくというよりえぐるくらいの強さだったけど)。 「……岩下さんて、恐いね」 「本人を前にそういう事言うのやめた方が良いわよ。ほら、青になったじゃない。進んだ進んだ」 「わかりました」 思わず敬語で返してしまった。 こんなに女の子に弱い奴だったっけ、僕。 「まあ、少しドキドキしたわよ?」 「え?あ、うん……」 「何よ?高山くん、こういう答え欲しかったんでしょ?」 「はは……」 岩下さんの少しドキドキしたという答えを聞いて、逆に僕がドキッとしてしまった。 やっぱり敵わない。 そう悟った僕は、自分からからかうのは止めようと心に決めた。 「からかった罰として、明日の朝07時50分に今日私が自転車置いてきた場所に集合ね?」 「え?なんで?」 「なんでって……私の自転車は治ってないことだし?高山くんには私の運転手としてしばらく働いてもらいたいんだけど……駄目?」 こんな時だけ可愛らしく語尾を上げて尋ねてくる岩下さん。頷くしか選択肢がない僕は、やっぱり岩下さんはずるいと思った。 「おっけー、決まり。じゃあよろしく、運転手さん」 「了解しましたよ」 僕はわざとらしく、ため息混じりでそう答えた。岩下さんは嬉しいくせにと言って何故か笑い始めた。 でも……僕自身、本当は少し満更でもなかった。
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