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「え?」
「……。」
僕が自分の耳を疑い思わず聞き返してしまうと、岩下さんは沈黙状態になったしまった。
落ち着くんだ、僕。
安全第一の運転をまずは心がけなくては。
「い、岩下さんは友達と行かなくていいの?」
「……高山君が一緒に行ってくれないなら、友達を誘って行くけど。高山君は友達と行くの?」
「いや、毎年恒例みたいに僕は友達と行ってたから……」
女っ気の無いとは言わないが、彼女がいない男友達達の顔が思い浮かぶ。
僕も彼女はいないけど。
「じゃあ、駄目?」
「ぐ……」
岩下さんが僕の制服の裾を掴み、可愛らしい声で尋ねてくる。
僕は夏の暑さとはまた違う理由による汗が噴き出してくるのが分かった。
思わず自転車を止める。
「……ゆ、浴衣で自転車って、大丈夫かな?」
「私服で行くわ」
「……じゃあ、行こうか」
「本当っ!?」
すまない、女っ気が無いとは言わないが、彼女がいない友たちよ。
僕だって少しは女の子との思い出が欲しいんだ。
「じゃあ、何時から行く?あ、勿論晩ご飯食べてくるなんてもってのほかだからね?それに」
「タ、タイム。ちょっと待って」
「なによ?まさか、花火だけ見て帰るなんて言い出すんじゃ」
「いや、よく考えたらさ……あの広場まで行くなら、バスの方がよくない?」
「……じゃあ、バスで行く?」
「う、うん……だからさ、その。浴衣着て来てくれないかな?」
「……見たいの?」
「うん……」
「わ、わかった……」
最早、当初の歩くのが面倒だから僕と行くという理由がどこかに消えてしまっていたけれど、岩下さんは何も言ってこなかった。
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