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ある晴れた春の日。
高校二年生の僕は、少し寝坊してしまったためいつもより早いスピードで学校へ向け自転車を走らせていた。
毎日朝のホームルーム10分前に着くよう家を出ていたので、ちょっとだけ早めに。
どちらかと言えば田舎であろう僕が住む町では、自転車通学は珍しくもなんともない。
でも周りを見ると登校中らしき同じ学校の生徒が一人も見当たらないので、やっぱり少し焦っていた。
そして。
カチッ、と。
ギアを一つだけ上げ、もう少しスピードを上げようと足に力を入れた時。
「おっ……」
登校中の同じ学校の生徒を見つけ、僕の緊張は少し和らいだ。
自分一人じゃないと分かるとすぐに気持ちが楽になるのは、人間の性だろうか。それとも日本人の性?
ともかく。
そんなに焦る必要も無いんだと思い、ギアを戻した。足の力も抜き、スピードも段々と落ちていく。
それから、何か考えようとしたところで……――
僕は、また少しだけ焦り始めた。
前にいる女生徒は、自分の自転車を道脇にとめ、屈み込んで後輪部分とにらめっこしていた。
パンクか、何かかな。
まだここから学校までは距離がある。今から歩き始めても、ホームルームには確実に間に合わないだろう。
それにバスが通る道でも無い。
彼女に残された道は、諦めて歩くか、諦めずに猛ダッシュか。
なんて。
そんな風に他人事と決めつけ、普段の僕ならここで声もかけずに通り過ぎたかもしれないけれど。
「あ、高山君」
彼女は、クラスメートだった。
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