自転車

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「どうかした?」 呼び止められては、止まるしかない。別に呼び止めたつもりが彼女には無かったとしても、止まるしかない。 僕だって普通の男子だ。 女の子からの評価を気にしたりくらいはする。 つまり、ここで僕が無視して一人ホームルームに間に合っても、彼女が僕の行動を女子生徒の間で広めたら、僕は肩身が狭い思いをすることになるだろう。 名前まで知られているクラスメートなら、絶対に。とまぁ、なんだか大袈裟だけど、彼女がこちらに気付いた時点で僕は止まるしかなかったのだ。 「うん。多分、パンク」 「そう」 彼女、岩下麗花は、長い黒髪を春風になびかせながらそう言って立ち上がった。 少し小柄な岩下さんは、サドルに座ったままの僕の目線より頭の位置が低い。 特別仲が良いわけでも無いけれど、この雰囲気では僕から口を開くしかなかった。 「大丈夫?学校、間に合うかな」 「多分……無理だと思うわ」 「あ……だよね」 「…………。」 「……後ろ、乗る?」 別に疚しい事を提案したわけでも無いのに、何故か僕は酷く緊張した。 岩下さんは、表情を変えず、僕をジッと見てくる。 「二人乗りは禁止されてるわよ?」 「……ケータイも持ち込み禁止じゃなかったっけ?」 僕は岩下さんが時間を確認するためにポケットから出したケータイに目線を移してそう言った。
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