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深く考えるような事でもない。
「んっ……どう?バランスは」
「良いんじゃないかな。時間危ないだろうから、少しとばすね」
「学校に間に合うなら、なんでもいいわ」
岩下さんは自転車の荷台に横向きに座ると、軽く俺の制服を握ってきた。
「鞄、カゴに入れようか」
「お願い」
後ろから手渡された鞄を、僕は既に自分の鞄が入っているカゴに詰めて入れる。
僕がハンドルに手をやると、岩下さんが制服を握る手に力を込めるのが分かった。
「さぁ、遅刻したら高山君のせいだからね?」
「運転手変わる?」
「私を過大評価し過ぎね。遅刻しても責めないから、持てる脚力をすべて出し尽くして」
「了解」
岩下さんのゆったりとした口調からして、時間的にまだ余裕があるんだろう。
僕は最初こそ二人乗りの感覚に慣れなかったものの、走るにつれすぐにバランスも良くなってきた。
そして、二人乗りの道中では、
「高山君って、中学の時は……」
「高山君の家って……」
と、自転車を漕ぐ事に集中して自分から何も話さずにいると、何故か一方的に岩下さんからの質問の応酬を受けてしまった。
僕は岩下さんとそんなに喋った事はなかったけれど、今朝のこの出来事だけで彼女の印象が変わってしまった。
もっと大人しい、口数の少ない子だと思っていたけれど、彼女も立派なお喋りだった。
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