自転車

女の子がどんな話をするのかなんてよく分かりもしない僕は、ただ岩下さんの質問に答えていた。

中学の時に彼女ができた事くらいはあるから、別に女の子に苦手意識を持ってるわけでもないけれど、やっぱりよく知らない女の子と話すのは少し緊張した。

「高山君、私が声かけなかったら通り過ぎてた？」

「どうかな。岩下さんだって分かったら、止めてたと思うけど」

「……それ、どういうこと？」

「どういうことって……クラスメートなんだし、もし通りすぎて岩下さんが遅刻してくるのを見るのはバツが悪いしさ」

「私がクラスメートじゃなかったら、通りすぎてた？」

「えっ？いや……それは」

いや、絶対に声をかけてた。

なんて言えたら良いんだろうけど、岩下さんがこんなに追究してくるなんて思わず、僕は答えを濁してしまった。

「薄情者」

「と、止めてたよ。同じ学校の生徒なんだし」

「同じ学校の生徒じゃなかったら、無視してたんでしょ？」

「えぇっ？」

僕は岩下さんが何を言いたいのか本格的に分からなくなってしまった。

じゃあ逆に、何を基準に僕は遅刻ギリギリの通学路で困っていそうな人を助けたらいいんだ。

「ごめんなさい。今のはちょっといじわるだったわね。高山君が『あ、あの子は可愛いから助けよう』なんて思うはずもないもんね」

「そうだよ。あ、いや、岩下さんは可愛いと思うけどさ？」

「お心遣いうれしゅうございますよ、ありがとう」

「……どういたしまして」

少しだけ、背中を抓られた。