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目を閉じて力を抜くと漆黒の翼がバキバキと言う音と共にしまわれていく。
背中に残ったのは、八の字が逆さまになった形の二つの傷痕、翼の出口といった所だ。
「…な、なんだと言うんじゃ。まさか龍輔が死に神じゃったとわ…。」
「んっ?…あぁ柿爺。」
この家の主人の柿尾勝(かきお まさる)は、
避難していた隣の部屋のテーブルの下から顔を出した。
柿尾は、2年前妻に先立たれてからは龍輔の向かいの家で一人暮しをしている。
軽く腰の曲がった老人には、勿体ない大きな一軒家だ。
龍輔は、柿尾を実の祖父のように慕っており、柿尾からしても孫のような存在で、良き話し相手だ。
「うっ、ゴハッ…ごめん柿爺、そこに置いてある骨取って…」
苦しそうに脇腹を押さえてテーブルを指さす。
「ほ、骨っ?」
柿尾がテーブルの上にある、赤黒く光った右の肋骨に気付き手に取ると龍輔が、それそれっ、と頷いた。
「すまんのぉ、止めてやれなんだ。大丈夫なのかっ。」
柿尾は喋りながら龍輔の元へ近づき、心配そうにする。
「大丈夫…平気だよっ、ありがとね柿爺。…その骨貸して。」
柿尾から骨を受け取ると、それをゆっくりと腹に押し付ける。
ファ~
「うっ…毎度毎度この感覚が嫌いなんだよな」
神秘的な音がする。
柿尾は、目を真ん丸にして見ている。すると、一瞬で龍輔の砕けた肋骨が身体の中で元通りになった。
龍輔は、悪魔の血が通っているので傷の治りは抜群に早い。だが、閻魔につけられた傷は今回のように、特殊な道具、魔具(まぐ)を使わないと人間のように治りが遅い。
「ふぅ。助かったよ柿爺。でも、まだ体中がいてぇや。」
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