115人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
そして、父に結婚の承諾を得ようとすぐに挨拶に来てくれた。
最初こそ父は憮然としていたが、誠さんの誠意と真面目さが伝わって、案外すんなりと認めてくれた。
晴れて私達は婚約者となり、結婚の準備を始めたのだが…
誠さんのお父さんが体調を崩され入院。
その時に余命宣告を受けてしまう。
なんとか誠さんのお父さんに晴れ姿を見てもらいたいと準備を急いだけれど、結局、宣告されていた期間よりも早くお父さんは旅立たれてしまった。
誠さんは相当ショックを受け、喪が明ける来年のクリスマスイヴまで結婚式を延期する事になった。
その頃の私達は、よく、家族や親について話をした。
誠さんはお父さんとの思い出を思い起こしながら、時には涙し、時には儚げな笑顔を見せ、話してくれた。
私も、普段は決して口には出来ない母の事を話した。
もう記憶が曖昧になっていた事や、忘れてしまっていたはずの母との思い出が、話しているうちに蘇ってくる。
私の話を聞いた誠さんは、徐に顔を上げて目を輝かせた。
「オレの父親にはもう会われへんけど、愛のお母さんは京都で今も生きてはるやん。
今度2人で会いに行かへんか?」
母の居場所は何度か手紙が届いて知っていたけれど、ずっと育ててくれた父の手前、会いに行こうとは思えなかった。
父は今でも母の事を憎んでいたから。
「離婚しても愛の母親はお母さんだけや。
子供が母親に会ったらアカン理由なんかないやろ?
お父さんに気を遣うなら今はまだ黙っといたらええ…」
私は泣きながら頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!