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それ以来、父も誠さんも母の事には全く触れなくなった。
私は再会した時に教えてもらった母の携帯に電話をかけ、約束を果たせない事を詫びた。
母はわかっていたよと笑った声で言ってくれたけれど、その明るさが逆に胸を締め付けてくる。
一度希望を持たせてしまっただけに、きっとかなり落胆しているだろう。
私は何度も何度も、母に詫びた。
結婚式、1週間前。
この日は式場となるホテルでの最終打ち合わせの予定だった。
式のリハーサルや司会者との最終確認、当日披露宴で出される料理の試食、衣装の試着など。
いよいよ結婚するんだ…と実感が湧いてくるものの、私の心はどこか曇ったままだった。
もちろん嬉しさはあるけれど、やはり後味の悪さが残っている。
諦めたはずの想いが、式の日が近付くにつれて膨れ上がってくるのだ。
あんなに一生懸命に、私の為を想って父に説得を試みてくれた誠さんに対して、裏切るような言動をしてしまった私。
それは母に対しても同じだと思う。
どうしてたった一回で簡単に諦めてしまったんだろう。
自分の口からちゃんと伝えれば、もしかしたら父の心も動かせていたかもしれないのに。
後悔ばかりが渦巻いて、私はぼんやりとしながらウェディングドレスに着替えていた。
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