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■桜ヶ丘霊園墓地
━━洛西シキ━━━━━━━━
爽やかな夏風が頬を撫でる季節。
俺は唯一人、桜ヶ丘の山の山頂にある霊園へと足を運んでいた。
山頂といっても、徒歩四、五分で辿り着ける距離。
辺り一帯に聴こえるのは、優しく吹く風の音のみだ。
山の中だっていうのに、蝉の鳴き声すら聴こえない霊園。
俺はその中で、一つの墓の前に立っている。
墓に刻まれているのは、大切な親友の母親の名。
俺は花を入れ替え、線香を上げた。
両手を合わせ、目を瞑ると浮かんでくるのは、二年前に姿を消した親友の姿。
「ここに来るのも何度目になるか……」
俺はふと、そんな事を考え、そっと目を開けた。
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