Episode・1 少女

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「あ……あ……」 逃げなきゃ。 そう思うのに体が上手く動いてくれない。 激しい震えで歯がカチカチと音をたてる。 「お前は……息子か……」 漆黒の髪のその男の人はゆっくり僕に近づいてきた。 僕はズリズリとその場に座り込んだまま、後ずさりする。 その時こつ、と何かに当たった。 振り返るとそこにはお父様の首があった。 「ひっ」と短い悲鳴が漏れた。 でも…… 僕の胸には冷たくなったその体を守らなきゃ。 その思いに溢れた。 震える全身力を込め、膝立ちでお父様とお母様を背に両手を広げる。 男の人と目が合う。 冷たい……冷たい目。 その目が僕はとてつもなく怖かった。 「……指一本動かせぬ屍の両親を守ろうとするか…… ……似ているな」 そう言って目を細めた男の人の瞳が細められ、少しだけ優しいものに変わった。 「おい、お前 俺と来い」 「やっやだ」 「はっ テメーに拒否権があると思うなよ」 男の人は僕のおなかを殴った。 その後目が覚めた僕は男の人の家に居た。 そして僕に新しい名前をくれた。 「あの家で過ごしてきたお前はもう死んだ 夢か現かその目でしっかりと確かめたはずだ お前は新たな者として生まれ変わる 新たな名をやろう ……陽中 紅輝(ひのなかこうき) その名が表の名だ お前にこれから俺様直々に殺しの技を伝授してやる ……家族の仇を討て 俺が言えるのはそれだけだ」 その人は雪と名乗った。 そして、自分は殺し屋で、殺し屋がどういうことなのかも教えてくれた。 雪が血まみれで帰ってくることは少なくなかった。 そんな雪は……僕のせいで死んだ――。
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