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「ねぇ、ピザが食べたいわ」
サクラが言った。
俺は飲みかけのコーヒーを一気に飲み干して、タバコに火を点ける。
「いつもの宅配でいいのかい?」
俺は言った。
サクラは黙って首を横に振る。
「あなたの作ったピザが食べたいの。昔はよく作ってくれたでしょ?」
「わかった」
まだ十分に吸えるほど長いタバコを灰皿の中で揉み消して、俺は立ち上がった。
久しぶりにキッチンに立つ。
生地をこね、発酵させ、ピザの形にして、真ん中に線を引く。
そして、その線を境に別々の具をのせて焼き上げる。
次第にオーブンの中から香ばしい香りが漂ってきて、部屋の中を満たす。
そのせいか、サクラは上機嫌で鼻唄をうたっている。
そして、オーブンが焼き上がりを知らせる。
俺は焼き上がったピザを皿にのせ、サクラの前に差し出す。
「ハーフ&ハーフにしたのね」
サクラは嬉しそうに微笑む。
「ああ。君と俺との関係そのものだよ。別々、そういうことだよ」
俺は言った。
一気に部屋中を覆った冷たい空気は、焼き上がったばかりのピザさえも冷やしてしまいそうだった。
(完)
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