『出発』

7/8
前へ
/200ページ
次へ
翼君が置いた手の上に、田中さんが手をのせる。 「あっ、ぼ、僕も頑張ります……」 それを見た金田さんは恐る恐る、田中さんの手の甲に自分の手を重ねた。 すると田中さんが私に視線を向ける。 「ほら、八城さん。早く一番上に手をのせるんだ!」 「あっ、はい」 私が手をのせるやいなや、いきなり田中さんが、 「手の塊、いただき!」 そう叫び、あろう事か私達が手をのせた部分にかぶりつこうとしてきた。 「きゃあっ!?」 「ひっ!?」 「ゲッ!」 「うわっ」 私達は一斉に手を引っ込めた。 それを見た田中さんは満足そうにガハガハと笑う。 「はっはっはっ! 素晴らしい。それだけの素早さがあればやっていけるな。抜き打ち田中テスト、合格だ」 「は? おっさん、何が言いたいのさ。キモいし」 「世の中はなにが起きるか分からない。つまり油断大敵と言うことだ」 い、言いたいことはなんとなく分かるけど……団結していた雰囲気が見事にぶち壊しだ。 田中さん……やっぱりあなたはなんて人なんだろうか。 周囲で見ている皆も苦笑いをしていた。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67985人が本棚に入れています
本棚に追加