1 始まりの日々

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桜の花びらが舞う季節。 心踊るその季節は、たくさんのものを運んでくる。 爽やかな風、香り、暖かな陽射し、新しい気持ち…そして始まりの日々を――。 ********** 「ここが兄貴の通う学校…」 ポツリと呟いた少年は、感動した様に校門の前に佇んでいた。 自分と同じブレザーの制服に身を包んだ生徒が行き交うのを、思わず落ち着きなく見渡してしまう。 「なんか…緊張する…」 緊張を解す様にふぅ…と息を吐いてみるが、やはり胸の高鳴りは治まらない。 私立デコ若学園高等部。 品行方正、成績良しのエリート学校。 小中高とエスカレーター式の学校で、中等部・高等部の外部入学者は劇的に少ない。 そんなエリート学校に滑り込みの外部入学を果たしたのが、現在深呼吸をしている相澤由紀、15歳であった。 「やっと…」 彼はもともと公立中学に通っており、勉強もあまり得意と言える方ではなかった。 その彼が猛勉強してこの学園を志望した理由…… 「やっと、兄貴と一緒の学校に通えるんだ…」 何て事はない。大好きな兄を追って…の事であった。 ちなみに由紀の兄は初等部からこの学園に通っている。 実に9年後しの願いであった。 もちろん初等部・中等部の入学試験も受けたのだが、見事に惨敗。 由紀は愕然とし、死に物狂いで高等部の入学試験に挑んだ結果、今日の入学式に至る。 「補欠合格だって、合格は合格!」 大声では言えないが、本当にギリギリだったのだ。 由紀はきゅっと右の拳を握り、再び息を吐く。 「入学式の会場に行かないと…」 ずっと校門の前に突っ立っているわけにはいかない。 由紀は事前に兄から教えて貰った講堂への道筋を思い出し、歩きだそうとした瞬間。 「っ!」 「わっ!!」 背中に誰かがぶつかった。
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